大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 平成8年(行ウ)4号 判決 1997年5月27日

原告

舛田住宅株式会社

右代表者代表取締役

舛田憲二

右訴訟代理人弁護士

松村昭一

被告

福岡税務署長

吉椿信太郎

右指定代理人

岡村善郎

外五名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  被告が、原告の平成二年九月一日から平成三年八月三一日までの課税期間に係る消費税につき、平成五年一二月二一日付けでした更正処分について、納付すべき消費税額三億一四六四万一〇〇〇円のうち九八八四万八八〇〇円を超える部分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  事案の概要

一  本件は、原告の平成二年九月一日から同三年八月三一日までの事業年度(課税期間)(以下「本件課税期間」という。)に係る消費税の確定申告について、原告の更正請求に対し、被告が控除税額を過少に認定し過大な納付税額の更正処分を行ったとして、その一部取消を求める抗告訴訟である。

二  当事者間に争いのない事実及び証拠(各項毎に掲記)上明らかに認められる客観的な事実

1  原告は、平成三年一〇月三一日、本件課税期間に係る消費税について、次のとおりの確定申告を行った。(乙一四の3)

(一) 課税標準額

一二九億〇一二一万三〇〇〇円

右に対する消費税額

三億八七〇三万六三九〇円

(二) 控除税額の計算方法

一括比例配分方式

控除税額 三九四八万四九二四円

(三) 納付すべき税額

三億四七五五万一四〇〇円

2  第一次請求

(一) 原告は、平成三年一一月二八日、本件課税期間に係る消費税について、次のとおりの更正請求(以下「第一次更正請求」という。)を行った。

(乙八)

(1) 課税標準額

一二八億八五四五万六〇〇〇円

右に対する消費税額

三億八六五六万三六八〇円

(2) 控除税額の計算方法

個別対応方式

控除税額一億八一五六万四五一〇円

(3) 納付すべき税額

二億〇四九九万九一〇〇円

(二) 被告は、平成四年七月八日付けで、第一次更正請求に対し、更正すべき理由がない旨の通知処分をした。(争いがない。)

(三) 原告は、同年九月一日、右通知処分に対し異議申立てをし、これに対して被告が三か月を経過しても異議決定をしなかったため、同年一二月二五日、国税不服審判所長に審査請求(以下「第一次審査請求」という。)をした。(甲二、乙九)

(四) 国税不服審判所長は、平成七年一二月二六日付けで、第一次審査請求を棄却した。(乙一二)

3  第二次請求

(一) 原告は、平成四年九月七日、前記事業年度の原告の法人税の訂正確定決算書を作成して法人税の更正請求をするとともに、本件課税期間に係る消費税について、次のとおりの更正請求(以下「第二次更正請求」という。)を行った。(乙一〇)

(1) 課税標準額

一二九億九一四五万六〇〇〇円

右に対する消費税額

三億八九七四万三六八〇円

(2) 控除税額の計算方法

個別対応方式

控除税額四億〇七九六万六三五七円

(3) 納付すべき税額 〇円

控除不足還付税額

一八二二万六六七七円

(二) 被告は、第二次更正請求に対し、平成五年一二月二一日付けで、次のとおりの更正処分をした。(争いがない。)

(1) 課税標準額

一二九億九一四五万六〇〇〇円

右に対する消費税額

三億八九七四万三六八〇円

(2) 控除税額の計算方法

一括比例配分方式

控除税額 七五一〇万二六一三円

(3) 納付すべき税額

三億一四六四万一〇〇〇円

(三) 原告は、平成六年二月一四日、右更正処分に対し、異議申立て(被告から国税不服審判所長に対する申立書の送付により右申立ては審査請求とみなされた。以下「みなし審査請求」という。)及び国税不服審判所長に対する審査請求(以下「第二次審査請求」という。)をした。(甲三、乙一一、一三)

(四) 国税不服審判所長は、平成七年一二月二六日付けで、みなし審査請求を棄却し、第二次審査請求を却下した。(乙一二、一三)

三  原告の主張

1  原告が、本件課税期間に係る消費税として納付すべき税額は、次のとおりである。

(一) 課税標準額

一二九億九一四五万六〇〇〇円

右に対する消費税額

三億八九七四万三六八〇円

(二) 控除税額の計算方法

個別対応方式

控除税額二億九〇八四万四八四三円

(三) 納付すべき税額

九八八四万八八〇〇円

なお、右控除税額算出の基礎となる原告の本件課税期間における課税仕入のうち、課税資産の譲渡等にのみ要する額は九七億一八四二万五三八三円、課税資産の譲渡等及びその他の資産の譲渡等の両者に共通する額は一〇億六八一六万六二二七円であり、前者の中には外注費三七億七四八八万九三九二円が含まれる。

2  建築費は、課税売上である建物売上に対応する課税仕入であるから、その消費税は課税売上の消費税から全額控除すべきであり、右控除税額の計算方法として一括比例配分方式を選択することは、土地の売上のような非課税売上に比例配分することになって、課税売上の消費税に対応する課税仕入の消費税だけを控除することを原則とする消費税の本質、立法趣旨に反し許されないところ、原告は、右のとおり選択が許されない一括比例配分方式を、選択できるものと誤信し錯誤により選択して控除税額を計算したものであり、納付すべき消費税額の計算には明らかな誤りがあった。

3  一括比例配分方式を適用する場合は、その計算結果が、課税売上の消費税に対応する課税仕入の消費税を控除した場合と近い数値になることが必要であり、本件では、建築費を比例配分した結果控除税額が極めて過少となり、右の計算結果との間に著しい差異が生じるから、本件における一括比例配分方式の適用は税負担の公平に反し許されない。

四  被告の主張

1  原告が、本件課税期間に係る消費税として納付すべき税額は、第二次更正請求に対する更正処分(前記二3(二))のとおりである。

なお、原告主張の外注費三七億七四八八万九三九二円のうち、五億四六二三万円については未完成工事代金であり期末仕掛品に係る前払金として処理されるべきであるから、原告の右期間における課税仕入等の合計額はこれを除いて算出した一〇二億四〇三六万一六一〇円である。

2  課税売上割合が九五パーセント未満の場合、課税仕入等の内訳が区分経理されている限り、一括比例配分方式と個別対応方式のいずれを選択するかは納税者の自由に委ねられており、原告は、本件課税期間に係る消費税の控除税額の計算方法として一括比例配分方式を選択したのであるから、これを個別対応方式に変更することは計算の誤りにあたらない。また、一括比例配分方式と個別対応方式とで算出結果が異なることに後から気づいたからといって、確定申告の要素に錯誤があったとはいえない。

3  一括比例配分方式と個別対応方式のいずれが有利であるかを一概に決することはできず、納税者が各人の経理結果等によりいずれの方式を選択するかを任意に判断すべきものであって、税負担の公平に反するものではない。

五  争点

1  原告の本件課税期間における課税仕入等の合計額、消費税の控除税額、納付すべき消費税額

2  原告の本件課税期間に係る消費税の控除税額の計算方法として、一括比例配分方式を適用できるか否か。

3  個別対応方式と一括比例配分方式とで納付すべき消費税額に顕著な差異が生じる場合、これが減額更正の理由たりうるか。

第三  当裁判所の判断

一  争点1

1  納付すべき消費税の額は、課税標準額に対する消費税額(A)から、課税仕入等に係る消費税額の合計額(B)を控除した金額であるところ(消費税法三〇条一項)、原告の本件課税期間における課税標準額が一二九億九一四五万六〇〇〇円であり、これに対する消費税額(A)が三億八九七四万三六八〇円となることは争いがない。

2(一)  課税仕入等に係る消費税額としてどれだけが控除の対象となるかは、当該課税期間中の課税売上割合によって異なるところ、①課税売上高(税抜き)、②非課税売上高、③有価証券譲渡額の五パーセント、を合算して算出される総売上高(税抜き)に対して占める右①の割合(課税売上割合)が九五パーセントに満たない場合は、一定の方式(個別対応方式と一括比例配分方式)によって、控除する税額と控除できない税額とに区分される(同条二項)。

個別対応方式は、課税仕入の内訳が、課税資産の譲渡等にのみ要するもの(a)、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの(b)、両者に共通して要するもの(c)の区分が明らかにされている場合に、aの消費税額と、cの消費税額に課税売上割合を乗じた額を合計して控除税額を計算する方式である(同項一号)。他方、一括比例配分方式は、課税仕入の内訳の区分が明らかでない場合に、課税仕入(aないしc)の消費税額の合計額に課税売上割合を乗じて控除税額を計算する方法である(同項二号)。また、右二項一号に該当する事業者であっても、個別対応方式に代えて一括比例配分方式で計算することができるものとされている(同条四項)。

(二)  この点、前記第二の二3(二)及び三1並びに甲三号証によれば、原告の本件課税期間における課税売上高(税抜き)が一二九億九一四五万六五三三円(①)、非課税売上高が三八四億四九四〇万七〇三六円(②)、有価証券譲渡額が二九億五九〇四万九七八四円でその五パーセントが一億四七九五万二四八九円(③)であること、したがって、総売上高は、①ないし③を合計した五一五億八八八一万六〇五八円であり、課税売上割合は、①を総売上高で除した25.18パーセントであること、以上の事実が認められる。

なお、原告は、その平成八年九月一三日付準備書面中において、被告主張の課税売上高(税込み)中の受取家賃九億〇六〇三万〇六二四円について、「殆ど居住者に対するマンションの賃貸家賃収入であって、非課税売上である」旨主張しているが、元々、原告自身が右受取家賃を課税取引に含めた上で課税標準額も計算しているのであって、右主張はこれと矛盾するものであるから採用の限りではない(そもそも、原告が、右主張をするに至ったのは、平成三年法律第七三号により消費税法の一部改正がなされ、別表第一の一三が加えられたことに基づくものであり、主張自体失当というべきである。)。

(三)  原告の本件課税期間における課税仕入等のうち、外注費を除いた七〇億一一七〇万二二一八円については当事者間に争いがなく、右外注費については、原告が三七億七四八八万九三九二円、被告が三二億二八六五万九三九二円とそれぞれ主張し、その間に五億四六二三万円の差異がある。

この点、原告は、第一次更正請求では外注費を計上せず(乙八)、また、法人税の更正請求とともに行った第二次更正請求では外注費として七七億九四〇八万九三九二円を計上しているところ(乙一〇)、これに対する更正処分において、久留米津福マンション等六件の外注費合計四五億六五四三万円につき、本件課税期間中に引渡しを受けたものでないことを理由に課税仕入に係る支払対価の額から減額され(乙一一)、減額後の外注費の金額は、前記被告主張の三二億二八六五万九三九二円となることが認められる。他方、前記法人税の更正請求に対しても、右更正処分と同時に更正処分がなされているところ、原告は、右法人税の更正処分に対する審査請求において、外注費に関する過大計上の認定額を全部認める旨の主張をしていること(甲四)が認められる。

これに対して、原告は、前記のとおり、本訴において右額に五億四六二三万円を加算した額を外注費として主張するが、これには、前記久留米津福マンション等四件に係る分がなお含まれており、その合計額が右加算額と同額の五億四六二三万円となることが認められるから(弁論の全趣旨)、被告主張のとおりこの分を差し引くべきものと解する。

(四)  そうすると、右課税仕入等の合計額は一〇二億四〇三六万一六一〇円となること、したがって、課税仕入等に係る税額は、右金額に一〇三分の三を乗じた二億九八二六万二九六〇円となることが認められ、それ故、一括比例配分方式によった場合の控除すべき消費税額(B)は、二億九八二六万二九六〇円に0.2518を乗じた七五一〇万二六一三円となる。

3  したがって、控除税額の計算方法として一括比例配分方式を適用した場合に原告が納付すべき消費税額は、三億八九七四万三六八〇円(前記1)から七五一〇万二六一三円を差し引いた三億一四六四万一〇〇〇円(一〇〇円未満切捨て)となる。

このように、一括比例配分方式を適用した場合の計算は、全部被告主張のとおりとなる。

二  争点2

1  個別対応方式及び一括比例配分方式による控除税額の計算方法は前記一2(一)のとおりであるから、個別対応方式では全額控除される課税仕入(課税資産の譲渡等にだけ要する課税仕入)についても、一括比例配分方式ではその課税割合分しか控除されないことになり、これを換言すれば、原告が主張するとおり、一括比例配分方式では、課税売上に対応する課税仕入等に係る消費税を非課税売上にも配分する結果になるということもできないではない。

2  しかしながら、右は一括比例配分方式を適用した場合の当然の結果というべきであるし、そもそも一括比例配分方式は、本来、前記区分経理がなされておらず個別対応方式による控除税額の算出ができない場合の計算方法であり(三〇条二項二号)、その適用を、区分経理をしている事業者にも認めている消費税法三〇条四項の趣旨は、右控除税額の算出について前記aないしcのような区分を要しない分個別対応方式に比して簡便な税額算出方法である一括比例配分方式について、右事業者には区分経理を理由にその適用を否定することは、区分経理の手間をかけた者に簡便な税額計算を認めないことになって妥当でないとの配慮に基づくものと解される(乙一、五ないし七)。

したがって、区分経理をしている事業者による一括比例配分方式の適用は、その事業形態によって適用が許されたり許されなかったりするという性質のものではなく、原告のように、建物を建築して売却することに伴い土地の売買もするという事業者だからといって、およそ一括比例配分方式を選択することができないという結論を導かなければならないということにはならない。

3 以上によれば、本件において適用が許されないのにこれが許されるものと誤信して錯誤により一括比例配分方式を選択したとの原告の主張に理由がないことは明らかであり、この点につき税額計算の誤りがあったものとは認められない。

三  争点3

1  前記のとおり、個別対応方式では全額控除されるべき課税資産の譲渡等にだけ要する課税仕入等についても、一括比例配分方式ではその課税割合分しか控除されないことから、この点だけをみれば、右の分個別対応方式に比べて不利な結果になることは避けられない。

この点、本件において控除税額を個別対応方式によって計算した場合、その全額が控除対象となる前記aに対する消費税額は、外注費について前記認定額まで減額した場合でも二億六〇〇〇万円を超える額となり、これにcの消費税額に課税割合を乗じた額も加わるのであるから、全体の控除税額は、一括比例配分方式の控除税額を二億円近く上回り、したがって、納付すべき消費税額にも二億円近くの差異が生じることになる(以上につき、前記一2(二)ないし(四)及び3、甲三)。

2  原告は、右のように、一括比例配分方式により算出された納付すべき消費税額が、個別対応方式により算出された右額に比して著しく高額になる場合は、一括比例配分方式の適用が税負担の公平に反するものとして許されない旨主張するが、区分経理を行っている事業者は、確定申告の時点で、両方式によって納付すべき消費税額がそれぞれいくらになるかを計算し得るのであって、右のような顕著な差異が生じる場合、納税者がより負担の低い個別対応方式を選択することには何ら制限がない(一括比例配分方式を採用した場合は、二年間これを継続適用することが要求されているが(三〇条五項)、原告は、本件課税期間の前年度において個別対応方式を採用しており(甲七の1、乙一四の2)、右制限は問題とならない)。

他方、前記のとおり、一括比例配分方式には、個別対応方式に比してより計算が簡便であるという利点があるのであるから、両方式の長所・短所を勘案した上で、そのいずれを選択するかを当該事業者の判断に委ねるとすることに何ら問題はなく、したがって、一括比例配分方式による税負担が個別対応方式による場合に比し大となる場合であっても、両方式の選択が納税者の任意に委ねられている以上、その不利益を甘受するものとして同方式を選択したものと見るほかはない。そして、右の点は、両方式による納税額の格差が顕著となるからといって別異に解すべきでなく、この場合に一括比例配分方式の適用が税負担の公平に反するということにはならないというべきである。

3 しかして、原告は、本件課税期間における消費税額の確定申告において、控除すべき課税仕入等に係る消費税を計算するに当たり、一括比例配分方式を選択してこれを算出したことは前記第二の二1のとおりであるから、原告の前記主張は採用することができない。

なお、本件のように、一括比例配分方式を適用した場合の納付税額が、個別対応方式を適用した場合と比して極めて高額となる場合、右金額の具体的な差異を納税者本人が認識していれば、あえて一括比例配分方式を適用することは通常考えられないこと、消費税法の施行が昭和六三年一二月三〇日であり、本件課税期間に係る消費税の確定申告の時点において、納税者の消費税法に対する理解が十分であったといえるか疑問がないではないこと等から、本件事案において原告の被る不利益の大きさ及び消費税法施行と本件確定申告との時期的関係に鑑み、その更正請求に対する弾力的な処分を検討する余地が全くないとまではいえない。

しかし、税制改革法一七条二項によれば、消費税法の施行から平成元年九月三〇日までの期間、同法の執行に当たり広報、相談及び指導を中心として弾力的運用が行われたことが認められ、他方、原告が本件課税期間に係る消費税の確定申告を行ったのは、右期間経過後更に二年を経た平成三年一〇月三一日であること(前記第二の二1)、原告は、本件申告に先立って平成元年及び平成二年の各一〇月末日においても消費税の確定申告を行っていること(乙一四の1、2)が認められることから、これに弁論の全趣旨を考慮すれば、前記の点に鑑みても、なお結論を異にしなければ原告の利益を不当に害するとまではいえない。

四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官西理 裁判官岡健太郎 裁判官茂木典子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例